on the road

カルチャーに関する話。

「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」

何となく今年は映画100本は見たいと思っているけれど、週1で見るか見ないかのペースになっている。最近見たのは「アメリカン・アニマルズ」。面白かった。「愛がなんだ」のことをずっと考えているから、ようやくラストのテルちゃんの行動、言動が腑に落ちるようになってきた。「愛がなんだ」で語られていたことのひとつは、人と人との関係を愛だ恋だなんて簡単な言葉で片付けるな!ってことだったと思う。そういう観点から考えれば、テルちゃんの行動や言動は何とか理解出来る。

 

最近読んだ「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」も世界を簡単にするな!ってことが描かれていた。

 

彼女が好きなものはホモであって僕ではない

彼女が好きなものはホモであって僕ではない

 

 

今、NHKでやっている「腐女子、うっかりゲイに告る」の原作でこのドラマの脚本が三浦直之だし、読むか!って思って買った。ドラマを見逃し続けてしまったので、どこかの機会で一気に見る。

 

「彼女が好きなものはホモであって、僕ではない」というタイトルだけだったら、僕は買わなかった。ライトなタイトルの割に描かれている内容はヘヴィーだ。

 

主人公でゲイの安藤が、三浦さんがBLの本を買うところを目撃するところから物語は始まる。安藤と三浦さんは同級生で同じクラスだ。しかし、あまり話したことはない。

 

三浦さんは、妹の本だと言い訳をするが、やがて自分のものであると観念する。

 

「三浦さんはどうしてホモが好きなの?」

何となく聞いてみる。生き方の参考になるかもしれない。ーー嘘。単なる嫌がらせ。

「どうしてって……なんか、こう、非日常感というか」

「非日常かな」

「非日常でしょ。わたしの周りにはそういう人、いないもん」

ーー目の前にいるよ。

当然、言わない。勘違いしてはいけない。彼女が好きなものはホモであって、僕ではない。

浅原ナオト「彼女が好きなのはホモであって僕ではない」

 

自分からカミングアウトすることなく、周りに合わせるように生きている。これは性的指向の話だけれど、自分の趣味や好きなものを否定されてしまう時に、反論せず愛想笑いしてしまうこととかそういう生き方の話だ。

 

腐女子のイベントに付き合わされ、その後にサンシャイン水族館に行った時の会話がこの本で好きなところベスト3に入る。

 

「ねえ。今、『これだから腐女子は』 って思ってない?」

「思ってないよ」

「嘘」

「嘘じゃないよ。僕はよく知らないけど、腐女子がみんな三浦さんみたいな子なわけじゃないんでしょ。だから僕が思うとしたら『これだから腐女子は』じゃなくて『これだから三浦さんは』だよ」

 

(中略)

 

「人間は、自分が理解出来るように世界を簡単にしてしまうものなんだって」

「どういうこと?」

「例えば物理の問題で摩擦をゼロにしたり、空気抵抗を無視したりするでしょ。そういう風に世界を自分でも分かるように簡単にしてから、合意運に理解して、分かったことにしてしまう。でも本当のことは誰にも分からない」

世界に法則なんてない。真実は誰にも分からない。自分自身にも、きっと。

「僕は世界を簡単にしたくない。摩擦をゼロにして、空気抵抗を無視して、分かったフリをしたくない。腐女子だから三浦さんはこういう子なんだって決めつけたくないんだ。だから、そういうことを考えないようにしてる」

浅原ナオト「彼女が好きなのはホモであって僕ではない」

 

これだから三浦さんは、という呆れ方にちょっと憧れてしまった。そのセリフを口にする自分の姿を想像したら、自分のキャラに合わずに気持ち悪かった。なので実践はできない。話を戻すが、これだから腐女子は、これだから女子は、これだからオタクは、とレッテル貼りをしてしまう方が簡単だし、分かった気になる。そういう理解の仕方の中には絶対漏れがある。無視した空気抵抗みたいに、その人の価値観のどこかをなかったことにしてしまう。そういう恐ろしさを思い知らされる。

 

最近、よく聞いている東京事変の「透明人間」にもほんのちょっと通ずるところがあると思う。


透明人間 - 東京事変(Tokyo Incidents)

 

 

 

僕は透明人間さ きっと透けてしまう

同じ人には判る

噂が走る通りは 息を吸い込め

止めた儘で渡ってゆける

 

秘密も愉しいけれど直ぐ野晒しになるよ

それを笑わないで

 

好きなひとやものなら有り過ぎる程有るんだ

鮮やかな色々

 

あなたが笑ったり飛んだり大きく驚いたとき

透き通る気持ちでちゃんと応えたいのさ

 

東京事変「透明人間」

 

ほんのちょっと通ずるなーと思うのは、噂なんかに左右されずに好きなひとやものにまっすぐな気持ちで向き合おうぜって部分。(恥ずかしながら東京事変を今までちゃんと聞いたことがなかった。艶っぽい感じとかがあまり好きじゃなかったからだ。けど、「透明人間」の歌詞の「好きなひとやものなら有り過ぎる程有るんだ」って部分が琴線に触れまくった。食わず嫌いはよくないなと改めて思う。)

 

安藤が、どう自分の性的指向をカムアウトするのか、三浦さんとの関係はどうなるのか。期待以上に面白かったので、興味ある方は読むべし。