on the road

カルチャーに関する話。

悔しさ

今更だけれど、ユリイカ2019年7月号は山戸結希特集だった。

 

「ホットギミック ガールミーツボーイ」で打ちのめされてしまったので、山戸結希のことを知りたくなったのだ。

 


新時代の青春恋愛映画誕生。 映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』本予告/6月28日(金)公開

 

この雑誌を読んだ時にやけに印象的だったのが上埜すみれの文章だ。山戸結希と上埜すみれは大学の映画研究会の先輩後輩の関係だ。

 

「ゆきさん」いまでもそう呼んでしまう。山戸結希(やまと・ゆうき)、映画監督。およそ一〇年前、私がはじめて彼女に会ったとき、上智大学の映画研究会で「ゆきさん」と呼ばれていた。学年が一個上の先輩。哲学科。ふわっとしていて声がかわいい。ふつうの女の子だと思った。ふつうの女の子はいつのまにか、部室で映画を観てはたまに連れ立ってオールナイトへ行く位のゆるい集まりだった映画研究会を、映画を撮るための組織に変えていた。ふわっとした佇まいのまま部長になって立っている。嵐のような出来事だった。

 

恐ろしいくらいのカリスマ力を当時から発揮していたことが伝わる。処女作である「あの娘が海辺で踊ってる」が第二四回東京学生映画祭の審査員特別賞を受賞してしまうのだから、さらに恐ろしい。

 

すべての映画の「あなた」と「私」がわたしたちだったら。いつかの部室で観たありがちな映画みたいに、ドラマティックに出会って、仲良くなったり、恋に落ちたり、喧嘩したりするのを、なんども再生して巻き戻して大切に確認することができたら、それはふつうに幸せだ。でも、ちっともそんなことさせてくれないスピードでごうごう進むあなたが神様みたいに強くて美しいのが、私には嬉しくて悔しくて泣きながら走って、全然届かなくて、でも私だって走っていたいから、ぐしゃぐしゃになっても死ぬまで止まらないでいよう。そうしたら、またどこかで会えるかもしれない。

 

山戸結希の強さに憧れを感じると同時に悔しくて悔しくてたまらないという上埜すみれの感情が痛いほどわかる。僕も文芸サークルで多少本を読んだり、たまに小説めいたものを書いたりしたわけだが、今読み返してみるとひどいものばかりだ。

 

「ガンバ!Fly high」の一ファンとして憧れの感情を持っていれば、楽しいという感情を持っていれば、おのずと読み書きがうまくなっていくものなのかと思っていた。なんとかなると思っていた。けれど、どうやらそれだけではなんとかならないみたいだ。僕の場合は特に。創作している時に生じそうになるこのくらいでいいか、と安易な方向に流れる気持ちを抑えるためにも、悔しくてたまらない、という感情が必要だ。悔しいというのは、もっとできるだろ!と自分に期待しているってことだ。まだ20代で全然未熟で相変わらず甘っちょろいところがあるけれど、少しずつ前に進めたらと思う。

 

※「ガンバ!Fly high」のラスト、主人公が「体操やってよかった」と喜びを噛み締めるシーンが何度読んでも感動します。