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カルチャーに関する話。

ジョーダン・ピール「NOPE」感想メモ

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写真や映画には、見たいという欲望を叶える性質が少なくともあった。エドワード・マイブリッジの馬の走る様子を映した連続写真は、馬がどう走るかを記録するために撮影された。

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ジョーダン・ピール「NOPE」のエメラルドは、この連続写真こそが最古の映画であると主張する。あまりに有名なエドワード・マイブリッジの連続写真に写っている黒人の騎手の名前は全く知られていない。

 

映画の誕生以降、大衆の見たい欲望は拡大し続け、一方で忘れ去られた黒人の騎手のように見られる側はないがしろにされ続ける。作中の「ゴーディ 家に帰る」というシットコムではチンパンジーのゴーディがふいに激情し、演者を襲う。見る/見られるの関係性の反転。

 

Gジャン(作中のUFO)の底の大きな目を見る/見られるの関係性の象徴として考えることはそう難しくない。中盤くらいのシーンでGジャンが去って行った後に満月がぽつんと浮かぶシーンに、映画の創世記の作品のひとつであるジョルジュ・メリエス月世界旅行」を想起してしまう。

 

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月世界旅行」のあまりに有名な、人間の顔をした月の片目に天文学者を乗せた弾丸が打ち込まれるシーンも、実は見ることの搾取性に関する表現だったのではないかと考えてしまう。


終盤の展開に胸が熱くなってしまうのは、作中のキャラ達が見ることの搾取性に気付き、おびえながらもそれでもGジャンを撮影してやろうと、立ち向かっていくところ。それが世界を救うためではなく、有名になって一山築いてやろうという動機だとしても、終盤の展開は映画の肯定であると感じてしまった。

 

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奇奇怪怪明解事典がいちばん興味を引く紹介していると思います。(ネタバレ多いけど、そういうの関係ない映画なので大丈夫)

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これは何のメタファーなんだ、と想像を巡らすことが楽しい映画。小難しいことは置いておいて、IMAXレーザーGTで見ましょう!