on the road

カルチャーに関する話。

刺繍と歌集

『哀れなるものたち』のOPシーンで映し出される刺繍の美しさににっこりしてしまう。贅沢な手間。自分の消費行動の多くがコスパに支配されているから、こういうこだわりに触れるとこうありたいと軌道修正をしてくれる気分になる。そんなムードの中、最近会った大学時代の友人から服のこだわりについて色々話を聞く。

 

『ランウェイで笑って』を読んだり、「奇奇怪怪」のPodcastを聴いたり、分からないなりにイブサンローラン展に行ったりして、服には物語が編み込まれているものと知っていたが、いまいち思い切れなかった。それは、どうしても資産形成欲の方が強くて、服のことが詳しくない中で購買意欲が湧かなかったから。

 

でも、30までに達成したい資産金額をクリアしてもまるで資産形成への不安が消えなかったので、資産形成はほどほどにして、適度にお金を使おうというモードになったこともあり、服を買おうというモチベーションがふつふつと湧いたのである。

 

商業施設や百貨店に入っているようなアパレルショップに寄ってみても、あまりピンとこなかったので、ふらふらと散歩を繰り返した結果、中目黒にある個人でやっているセレクトショップのところの品揃えが自分好みだった。店主も話しやすい雰囲気の人で居心地が良いから、この店に通おうと思う。

 

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母方の親族は裁縫が趣味な人が多くて、手袋とかセーターを作っては親族間で贈り合ったりしている。母親も裁縫が趣味で定期的に編み物をしていて、小学生時代の家の記憶で思い起こすのは母がこたつに入りながら編み物をしている姿。なんで、母方の親族は裁縫が趣味なのか分からなかったのだが、「アド街ック天国」で、ユザワヤは蒲田で創業したという紹介を見て、その一端を理解した気がする。蒲田は母の実家であり、僕が今住んでいる街なのだが、蒲田にあるユザワヤは今でもとても大きくて、裁縫に興味を示すのはとても自然なことだったのかもしれない。

 

***

 

最近ハマっているのが伊藤紺の書く短歌。『気がする朝』という最近発売された歌集にハマって、過去二作も買って大切に読んでる。人間性が滲み出るような短歌で、同世代のひとでたくましくまっすぐ育ってきた人なんだと尊敬の念を覚える。たとえば、こういう短歌が好き。

 

きみがくれた普通をわたしはひとりでもやっていくんだと思うんです

 

パートナーと暮らした日々で得た行動様式はもう自分のものになっている。やっていくんだと思うんです、という距離感が良くて、ここには意志はあまり介在していなくて、ただ予感がある。そういう予感を抱えながら生きていく。

 

つらい目に遭った人の話を聞いて全身がずっと想像してる

 

これも好きで。明確に恐怖や怒りを描くのではなく、全身がずっと想像してる、と表現することで、ひたすらその人のことを想っている感じがして良い。

 

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最近、聴いてるアルバム。

 

Oh No - Album by Same Side | Spotify

箇条書き(リハビリ)

転職して4ヶ月目。思っていたより残業をする日々となってしまう。ブログを書きたいけど、まとまった文章を書けない。でも、何か吐き出したい。だから、箇条書きで、最近のことを。

 

京都、行先を確認せずにバスに乗ったら、行きたかった出町柳の方面から少しずつ外れていった。

 

馴染みのない街の本屋で自分の好きな作家の本があるといつもより嬉しくなる。

 

誰かに贈る本を探そうと本棚の本を手に取る時間。

 

電動キックボードで移動するのは旅情を感じなそう。せめて自転車に乗る。

 

電動自転車のアシスト力が強すぎて、路地裏でふらつく。

 

googleのレビュー、星4つ以上多すぎて、店が選べない。

 

京都のタクシー運転手はおしゃべり。デフォルトで観光客に色々教えてくれるモード。うまく相槌打たなきゃと必死になる。

 

KBSホール、思ったより小さい。くるり、Homecomingsがすぐそこにいる。

 

アンコールで、舞台上のカーテンが開いてステンドグラスが照明で照らされ、演奏される「I WANT YOU BACK」で涙腺が熱くなる。

 

最近の漫画原作の実写化問題。小学館第一コミック局の声明、当事者っぽい生の声で良く聞こえるのだけれど、最後の文章が余計すぎやしないか。実写化の企画に関わる立場にはないんだろうけど、もしかしたら自分たちがこうしていれば悲惨な事件を食い止められたんじゃないかとかそういう自責の念に駆られうる立場で、読者と同じような寂しいという感情を表明するのは違うと思った。

 

『ローラ・ディーンにふりまわされてる』、パートナーのことがどれだけ好きでもパートナーといると友達にひどいことしちゃう、と別れる展開、良い。恋愛対象のことを好きなだけじゃなくて、その人と一緒にいる時の自分を好きになれるのか。みたいな話。

 

『夜明けのすべて』、安易に恋愛関係にならずにお互いを認め合える関係で描き切っているのが良くて、劇中でも恋愛めいた話をほのめかさない筆致なのが良い。松村北斗は序盤、彼女と付き合っていて、別れを切り出される瞬間の演出、好き。松村北斗の部屋に入らずに「外で話したいんだけど」とだけ彼女は伝え、それだけで松村北斗も理解する。

 

障害に関する本を読んでいる。難聴の人が補聴器をしても、聞き取れない言葉がある。補聴器の性能向上よりも、自動字幕のサービスがさまざまな場面で使える方がありがたいらしい。自分の障害のある部分を補填できるほどの機能向上ではなく、自分がわかる感覚へ翻訳されること。

 

『ビフォアサンライズ』、冒頭の列車に乗ってるシーンで老夫婦が喧嘩している。そこでジュリー・デルピーが「夫婦は歳をとるとお互いの声が聞き取れなくなるのよ。男性は高い音を聞き取りにくくなり、女性は低い音を」とイーサン・ホークに話す。

 

新幹線、本を読みながら帰ろうとしたら、乗り物酔いになり、少ししか読めない。

振り返り2023(好きなもの25個)

あのとき一瞬だけ抱いた思いを

400字原稿用紙に書き上げたとしても

伝えたいことなんて何一つ書けずに

それでも先生は花丸をつけてくれた

MONO NO AWARE「言葉がなかったら」

 

イタリアの使い古された諺"Traduttore, traditore"は、翻訳者は裏切り者という意味だが、そもそも自分の感じたものすら100%の情報量で伝えることができない。chatGPTから聞き出したいことをうまく伝えることすらままならない。でも、こぼれ落ちてしまうものがあったとしても何か伝わるんじゃないか、という無邪気さをいまだに腹に抱えて30歳に突入してしまった。

***

悩みというのは真正面からはなかなか解決しないんじゃないか、ということを考える。悩みを打ち明けると、ありがたいことにそれに関するアドバイスをたくさん投げかけてくれる。論理の面では納得できるはずなのに、心理的ハードルを越えられるだけの何かが足りない気がしてしまう。

 

『氷の城壁』の99話「バグ」で、ミナトが自己嫌悪に陥り、人との関わり方がわからなくなってしまう。

 

一人でいる人を放っておけなかったのはただ

「自分がなりたくないから」で

俺は孤独を救うふりして

人の心が開かれる度に何かを許された気になって

依存されることで自分の存在意義を感じて

だんだん「目的」がすり替わっていって

ただ自分が達成感を得るために……

人の心を開くことで自分の存在を肯定してた。

ずっとろくに向き合えてなかった言葉だけを聞いて本質からは目を背けてた。

自分がどういう人間かに気づき始めてから今までの自分のあらゆる行動が恥ずかしい。

全部無意味に思えてみじめだ。

 

学校の帰り道、そんな状態のミナトにこゆんが近づく。こゆんはミナトの心の内を知らない。でも、元気がないミナトのことを心配に思って、話しかける機会を伺っていたのだ。一日早い誕生日プレゼントをミナトに手渡す。その不意の思いやりにミナトの感情が揺さぶられて、泣き出してしまう。こゆんは慌てふためくけど、近くにいた同級生に見つからないようにミナトの手を取り、走り出すこゆんとミナトに差す光が暗闇から抜け出した感があって最高だった。

 

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こゆんはミナトの悩みを全て知っているわけでも、それを直接的に解決したわけではないのに、ミナトは救われる。論理で解決する悩みもあるんだろうけれど、そういうものを軽やかに吹き飛ばしてしまう、事情を深く知らない人の善意に救われてしまうことが絶対ある。

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今年良かったものを振り返ります。

Book

乗代雄介『本物の読書家』

年始に読んだ本。古今東西の文学作品からの過剰な引用、それぞれの奥深さみたいなものに刺激されて、本を読みながら付箋を貼る習慣ができたように思う。でもその教養だけに惹かれているわけではない。フェティッシュさを感じさせる描写も好きなのである。

腕の付け根といいますか、肩のはしといいますか、なんともそこの美しい娘でした。わたしはその清純で優雅な円みに惹かれたのです。

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井戸川射子『ここはとても速い川』

児童養護施設の子どもが主人公で、子ども視点の話といっても、(大人が思う)子ども視点の話ではない。ちょっとした描写にも感性の鋭さで剥き出しの世界に出会っている感じがする。

肝試しは危険やから去年から夜の散歩になった。自然のこう、全部が黙っていない感じを受けながら歩く。

まだ食べてる途中で、両手で小さくなった焼きおにぎりを持つ影はお祈りの形なんやった。

ほんとに良い文章の連続で、何回でも読み返す。

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年森瑛『N/A』

かけがえのない関係性を求める主人公は、ラベリングされてコミュニケーションされることを嫌う。かけがえのない関係になれると思って同性の子と付き合うようになったことが友達にバレる。友達が話す言葉が全然友達の言葉ではないことの違和感。

専門家や当事者が教えてくれた正しい接し方のマニュアルをインストールして、OSのアップデートをしたのにもかかわらず、情報の処理が追い付かない翼沙のハードウェアは熱暴走を起こしていた。押し付けない、詮索しない、寄り添う、尊重する、そういう決まり事が翼沙を操縦していて、生身の翼沙はどこにもいなかった。翼沙から出た言葉は何一つ無く、全てを置き去りにして、マニュアルを順守するプログラムだけが動いていた。

多様性を大事にしようという気持ちで自分とは違う属性だとわかった瞬間、いつもと同じ接し方ができなくなる。でも、主人公も同じような思考回路を後に辿る。

自分の言葉で人の心を揺らしてしまうのが怖くて、自分の言葉の責任を担保してくれる何かが欲しくて、他人のお墨付きの言葉を借りたくて仕方がなかった。多くの人に使われてきた言葉を使用すれば、まどかがオジロとの今後の関係を安全に保っていられるは間違いなかった。

誰かに対する配慮の安直さが実は相手の人間性を蔑ろにしてしまうことだってある。そういうセンシティブさをキャッチーな比喩を多用して、なんてことないように描いていて、えぐい才能だと思った。

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キム・チョヨプ『この世界からは出ていくけれど』

世界の認識の仕方の異なる生物(あるいは機械)間のコミュニケーションのあり方を描いた短編集。姿かたち、言葉が違っていても、分かり合えるだろうという楽観的立場で描かれた話ではない。分かり合えない中でも、もしかしたら分かり合えるかもしれないという一筋の光を見出した瞬間を描き出してくれる、この慈愛に溢れた小説を愛さないわけにはいかない。韓国でどのような受容のされ方をしているのか知らないが、確実に若者をエンパワメントしてくれる小説だと思う。

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キム・ボヨン『どれほど似ているか』

同じく韓国のSF作家。最初の短編「ママには超能力がある」は10頁もないのだけれど、すっごい好き。一人ひとり独立した存在だけれど、気体のように少しずつ混ざり合っていくのだというのが、すっごいシンプルなのに優しさを兼ね備えて描かれる。キム・ボヨンもキム・チョヨプも現代社会に嫌気がさしている。それを批判するというよりは、新しい連帯の形をSFで探求している感じが好き。

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幅允孝『差し出し方の教室』

幅允孝のインタビュー力、企画力にただただ感心する。今年読んだ本でおすすめありますか、と言われたら結構な確率でこの本を薦めてしまうほど、読みやすさもあるし、知的好奇心を刺激する仕掛けがたくさんある。本を作ってみたい、という気持ちに少なからずなってしまう。

本来「本をつくる」ということは少人数で一気に盛り上がった熱量をそのままに、熱いうちに読み手に届けることだったんだなと再確認しました。

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松村圭一郎/中川理/石川美保『文化人類学の思考法』

文化人類学の主要なトピックにひととおり触れているから、僕みたいな初学者にはありがたい本だった。読み終えた後も頭に残り続けた箇所がある。2020年代の重要なキーワードであるケアという言葉も登場してくる。医療機関から排除され、家族や地域社会からも差別されてしまったタイでのエイズを発症した患者による自助グループの話も面白かった。ケアする者とされる者の二元的なケアとは違うケアのあり方。

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齋藤美保『キリンの保育園ータンザニアでみつめた彼らの仔育て』

実は野生のキリンの研究は全然進んでいないらしい。フィールドワークを通して、徐々にキリンの生態を学んでいくわけだが、そのフィールドワークでの生活描写も面白い。現地のレンジャーが言う「象牙を狙った密猟者は車を使うから、ゾウは車にトラウマがあってエンジン音に敏感なんだ」という話なんか、日本にいたら出会えないエピソードだ(本当か嘘かはわからないけど)。この新・動物記シリーズは装丁も可愛いので、徐々に買い揃えていきたい。

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Movie

井上雄彦『THE FIRST SLAM DUNK

年始に観た映画。最高に熱い山王戦。小中高時代に繰り返し読んでいた漫画であるから、アレンジのないそのままの映画化でも賞賛してしまっていただろうが、1996年に完結した漫画を2020年代にリメイクすることへの問い直しがされているのが井上雄彦の矜持を感じさせてグッときた。

 

原恵一かがみの孤城

脚本の完成度が高いわけではけしてない。でも、今まさに生きづらさを感じているティーンエイジャーに救いの手を差し伸べる人はきっといるよ、という直球のメッセージにほんとに心打たれてしまった。こういう物語をエンタメ作家の最前線にいる辻村深月が書いてくれることの嬉しさ。

 

スティーブン・スピルバーグ『フェイブルマンズ』

スピルバーグの自伝的映画。撮ることの暴力性、それでも映画を撮ることに取り憑かれた男という物語にえらく感動した。ラスト、ジョン・フォードからなげかけられる言葉とラストショットが最高。90分くらいの映画だったらもっと好きになったかもしれない。

 

ベン・アフレックAIR

ナイキのエア・ジョーダンがどう誕生したか。当時、ナイキはバスケットシューズ部門で3位の地位に甘んじていて、実力のあるバスケ選手とスポンサー契約を結んで宣伝するにも予算が他の会社よりもない。そんな中で、マイケル・ジョーダンをどうスカウトしたか、それが劇中で語られていく。ジョーダンは当初、アディダスと契約すると言っていたところからどう逆転するか、これはもうアツい物語になること確定。プレゼンシーンで、ジョーダンに語りかけるシーンが最高。アディダスコンバースのプレゼンは、今までこういう偉大な選手が契約していて、あなたもその一員になれるんですよ、だったり、契約金を積むことでアピールするのだが、そのプレゼンでは、マイケル・ジョーダンじゃなきゃいけない必然性はない。ナイキはジョーダンのためにではなく、人々のためにこのシューズを履いてほしいと語りかける。スターであるが故に訪れる困難をジョーダンが乗り越える度、人々を勇気づけるはずで、その象徴として、このエア・ジョーダンを履いてほしいのだ、というこの語りかけはジョーダンでなければいけない必然性があって、もう激アツ。

 

立川譲名探偵コナン 黒鉄の魚影』

今年、公開された立川譲監督作品は他に『BLUE GIANT』があって、もうアニメにおける立川譲の地位が間違いなく確立したのではないでしょうか。原作を長年読んでいる身として、灰原哀の成長を確実に感じさせるとともに、灰原哀の中でコナン君がどれだけ大きな存在だったかフラッシュバックする演出がとっても好きだった。まだ配信開始してないっぽいので、はやく配信開始してほしい。

 

是枝裕和『怪物』

わかりやすい悪役はいない。同じ印象で登場人物を見つめることもできない。子ども視点で物語が語り直された時、自分の先入観を恥じながらも麦野湊と星川依里の二人の行く末を案じたくなる。ラストの光に溢れたショットで締めくくられた時の余韻も心地よい。

 

フィル・ロードクリストファー・ミラースパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

今年公開されたマルチバース映画でいちばん好きなのは、エブエブではなく、こっち。それは僕のスパイダーマンへの偏愛が大いに影響している。多種多様なスパイダーマンの辿ってきた悲劇、このスパイダーマンのお決まりの展開をマイルスがどう乗り越えるのかめちゃくちゃ気になる。グウェンが冒頭で組んでたバンドを解散したのに、ラスト、マイルスを救うために別世界線スパイダーマンをとチームを組んでるのも激アツ。三部作、どのように締めくくるのか、これは今後のマルチバースの物語のマイルストーンになりうるから要チェック!

 

Drama

橋爪駿輝『モアザンワーズ

LGBT物だからと食わず嫌いするのは勿体なさすぎるドラマ。長回しが多くて、テンポがゆったりだから、年末年始でゆっくり見るのが良いです。悪い人はいないのに、3人が離れていってしまうのはとても悲しいし、槙雄が8話のラストで言う苦手な物が悲しすぎる。その後にかかるくるりの曲がそのショックを優しく撫でてくれる。10話の喫茶店のシーンは何回見ても良い。

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Comic

阿賀沢紅茶『氷の城壁』

ジャンプ+で『正反対な君と僕』を連載している阿賀沢紅茶のデビュー作。人とどう向き合うか、みたいなところにも力点が置かれていたり、一見明るくて一軍に属する人の苦悩みたいなところもちゃんと描くのが現代の恋愛漫画だなと思う。今年読んでよかった漫画ランキング1位です。

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藤子不二雄(A)『まんが道

THE SIGN PODCASTで少し『まんが道』について触れられていたから、全巻購入して読んでいる。満賀の捻くれた性格もなんだか憎めないのは、才野の言動ですぐに改めてくれるからだろうか。手塚治虫が睡眠時間がめっちゃ短かったのは知っていたけど、この時代の漫画家はほぼ同じ傾向にあることをはじめて知った。絶対寝た方が良いのに、映画を観に行ったり、生命を削ってる様に憧れを若干覚えた。後、出前のラーメンがめっちゃ美味しそう。

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芝塚裕吏/キムラダイスケマージナル・オペレーション

マガポケで知って、全巻読んだ。戦争がなくなれば良いのにという思いを漠然と抱いていたんだけれども、戦争がなくなっても別の困難が待ち受けている人たちがいることを知った。それだけでこの漫画を読んだ価値があると思う。単純にアラタの慧眼が爽快でもある。

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Music

MONO NO AWARE「風の向きが変わって」

今年はMONO NO AWAREを聴き込んだ1年だったので、今年の新曲はめちゃ聴き込んでいた。これを聞いてるとやるっきゃねえ!って思う。今年久しぶりにLIVEにも行ったんだけれど、コロナ前より明らかに観客が沸いていた。リスナーの心をちゃんと掴み続けてきたんだと部外者であるはずの僕も嬉しくなる。

 

NewJeans「ETA

こっそりNewJeansにハマっていた。K-POPをあんまり聞いてこなかったのは、セクシーすぎるからなんだけど、NewJeansはもう少しフラットに聞けるから好き。紅白歌合戦に急遽出演が決まったらしく、俄然紅白歌合戦を見たくなった。

 

Summer Eye「失敗 - new mix」

シャムキャッツが解散して結構悲しかったんだけど、こうやってまた音楽を作ってくれて嬉しい。しかも、少し前にやっていたLIVEがめちゃくちゃ盛り上がったらしく、行けばよかったと後悔してる。

 

君島大空「16:28」

繊細な歌声と歌詞。令和ロマンと並んでなぜか君付けしたくなるランキング上位。今年知って良かったアーティストランキング1位。

 

BialyStocks「Upon You」

Spotifyのプレイリストで知った曲。めちゃくちゃ良質なJ-POP。

 

Homecomings「US/アス」

今年出したアルバムで今まで以上にロックな感じが出ている一方で、優しさを歌うのは変わらない。私と君という関係ではなく、私たちという連帯。僕がこの曲に感じることは韓国SFの潮流でもある新しい連帯のあり方だったり、『かがみの孤城』で差し伸べられた救いの手のこと。もう長年応援しているアーティストだけれど、LIVEのクオリティもどんどん高くなっているし、これからも応援し続けたい。

魅惑の麺線、太るに足る食事

半年前に友人とした約束に縛られた食生活を余儀なくされている。僕は、突拍子もない約束をよくしてしまうのだが、半年前しゃぶしゃぶの食べ放題へ友人たちと行った時、どんな話の流れかはもう定かではないが、年末までに5キロ痩せなかったらiPad Pro買ってあげると一方的に交わしてしまう。友人からしたらノーリスクハイリターンなので、何も異論は挟み込まれない。

 

その年末までもう1ヶ月を切っている。それまで転職前後の送別会を言い訳にいつも通りの食事を取っていたから体重はさほど減っておらず、先週時点で後3キロ痩せなければいけない状況だった。

 

これはいけないと先週から強めの食事制限プラスジムで身体を小一時間動かすようにしてなんとか後1.5キロというところまでこじつける。

 

そんな中、ラーメンを食べたい欲がふつふつと湧き出し、SUSURU TVで自分の生活圏にあるラーメン屋のレビュー動画を漁る。最近は、煮干しラーメンにハマっていたから、煮干しラーメンを美味しそうにすするSUSURUを見て、我慢できねえな!と週末に足を運ぶ。

 

ダイエットが成功するかの不安もよぎっていたから、ラーメン屋まで歩く。大体25分くらい。店の前には20人弱の行列が出来ていた。普段なら並ばないけど、空腹とラーメン欲で判断能力が失われているので、何も考えずに並ぶ。

 

小一時間並んで、ようやく店の中に入る。発券機で濃厚煮干しラーメンとうずら卵、和え玉を買う。

 

そして、着丼。

 

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うまいラーメン屋は盛り付け方が綺麗だと思う。この綺麗な麺線を見るだけで食べる前から美味しさへの期待が50%くらい上がる。

 

実際に食すると煮干しが濃厚すぎて美味さにたどり着いた感じがしない。お腹を壊しそうになる。和え玉もひと口目は最高に美味しい。でも、お腹を壊しそうな状態では二口目以降はただ過酷なだけである。

 

帰り道、確かに胃の中に収まったという存在感を感じながら黒烏龍茶を買う。黒烏龍茶は食後に飲んでも意味がないと聞いたことがあるが、罪悪感を紛らわせればOKなので気にしない。

 

その日からなし崩し的にご飯を食べてしまい、昨日の夜、体重計に乗るとせっかく痩せた分が元通りになっていた。後3キロ。明日の夜からまた頑張ります(明日の昼は会社の人にケンタッキーを奢ってもらう約束があるのでダイエットは一時休戦)。

 

蟹、日プ

北野武監督最新作『首』の冒頭、川岸に首なしの死体が流れ着いているシーンから始まる。その死体の胸部に沢蟹が歩いているし、切断された首からわらわらと沢蟹が出てくる。最近読み進めている大江健三郎の『同時代ゲーム』で、瘴気を帯びた谷間の沼地が50日間の雨で浄化されたことで沢蟹が湧き、茹でてはつぶして団子にしたという描写を見かけたばかりで、蟹は生と死の表象に近しいところで蠢いているのを不思議に思った。歴史の教科書でヘイケガニの名前の由来が載っていたのも印象的だった。日本書紀とか歴史書を読めば、もう少しそこら辺の結びつきを読み解けるのかもしれない。

 

歴史から学ぶことは多いはずなのに、記憶から抜け落ちてしまう。『首』を観ていて、本能寺の変の時代に活躍していた武将の名前や戦のことがすっかり覚えていないことを恥じる等した。高校の頃、勉強時間はそれなりに多かったはずだが、自分のOSにはインストールされておらず、外付HDDにデータを入れるような勉強法だったわけだ。授業中、黒板に書かれた言葉の連なりをきれいに書き写すことのみに力点を置いていて、教師の語りは右から左に流れてしまっていた。

 

集中すれば、誰かが語った言葉は頭に強く残ると思う。脳内に残るのはテキスト情報だけでなくて、きっとノンバーバルなものも含まれているから。少し前に「居残り佐平次」という落語の噺を聞いた。その枕で四宿というものについて語られていた。江戸から各街道への出入口にあたる宿場町のことを総称して、四宿と言うらしい。千住、板橋、新宿、品川が宿場町で、その宿場町には遊郭があり、その名残で今も風俗店があったりするのだ、ということを聞いて、江戸時代と現代が接続されて、東京という街の解像度が高まったような気持ちになる。

 

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最近、同時多発的にハマっている人の語りを聞いて、Produe 101 Japan THE GIRLS、通称日プ女子をLeminoというアプリで見始める。日プ女子はオーディション番組で、101人の候補生からグループとしてデビューする11人が選ばれるまでを追い掛ける番組。視聴者の投票で、選ばれるのだけれど、番組内でレッスンしてるときの自分の殻を破るために涙を流すシーンの多いこと!心が折れかけている瞬間に同じ組で練習している子たちが励まし合う様だったり、トレーナーの力強く鼓舞する言葉なんかに僕も強く励まされる。#3 から始まるグループバトルは、候補生が6人組ずつになって、一つの楽曲に対して2チームパフォーマンスして、優劣をつけるものなのだが、Part7で取り上げられたチームは1週間ある練習期間のほとんど、体調不良者が続出したせいで2人しか練習できていなかった。対決する相手は、序盤の投票結果で上位にランクインした手練れ揃いで圧倒的不利な中、たった2人で気迫あふれるパフォーマンスをレッスンで披露した瞬間、こういうものに心を打たれてしまうんだよなと涙腺が熱くなる。その後のダンストレーナーの中宗根梨乃の言葉も最高で、この番組で求めてしまうもののひとつにトレーナー陣の力強い言葉だということにも気付く。「乃木坂ってどこ?」の選抜発表の時、選抜発表された後のバナナマンの設楽の言葉を求めていたときも同じ。思うような結果が出せなかったり、自分に自信が持てない人たちに向けて、かけてあげたい言葉をダイレクトに届けてくれる。僕にはそういう励ましだったり鼓舞する言葉をうまく投げかけてあげることはできないから、そういう人たちはとても憧れを感じる。

 

 

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日プ女子を見ていて、順位発表で脱落者が出てしまうとこまで見たんだけど、正直脱落者の子たちがあまり印象に残っていない。でも、本当に落とされてしまうほどだったんだろうか。人気投票は本当に人気を反映しているのか、という話。ガラム理論というものを最近本で読んで知ったんだけど、多数決に参加する者には固定票タイプと浮動票タイプの2種類いて、浮動票タイプは周りの意見を聞いて、意見を変えるから、固定票タイプの意見を聞いて意見を変える、ということを繰り返していくと、やがて固定票の意見が多数派を占めてしまうという理論だ。そういう理論を通して見ると、投票という制度が必ずしも人気を正しく反映するものではない気がしてくる。

 

でも、この番組のバランスの取れているところはトレーナーたちのリアクションによって、実力者がちゃんとフックアップされて報われる。判官贔屓ではないと言い張りたいけど、Fランクだった人たちが腐らずに練習を重ね、順位を上げていく様を見ると、自分も頑張ろうという気持ちになってしまう。

朝練したい

引っ越してから、遮光カーテンの隙間から陽が差し込んで、目覚めが良くなった。朝、寝起きに日差しを浴びることの重要性にようやく気付く。今まで目覚めが悪く、二度寝は当たり前、朝ご飯もろくに食べずに家を出る日々だった。けど、ちゃんと起きれるようになって、朝に対してイメージが少しずつ変わってきて、この2,3週間くらい、朝を再定義したい気持ちになっている。

 

蛍雪の功という言葉は、中学生か高校生の頃、国語便覧で出逢った言葉だった。蛍の光、窓辺に映る雪明かり。努力はそういうささやかな光を頼りに夜にするものなのか、と印象に残っている。でも仕事終わりに家へ帰ると、疲れてこっから勉強だ、という気持ちにスイッチを入れるのは相当難しい。夜は飲み会やご飯の予定も入りやすいので、今日はやらなくて良いかって気持ちになりやすい(ほぼ100%)。

 

『アオのハコ』を読んで、朝練する人の意志の強さ、まっすぐさがすっごい刺さる。夜にする努力よりも習慣化されてる感もあるし、体力のある時間帯に自分のやりたいことをやるということの正しさ!練習試合で遊佐君と試合するシーンの、千夏先輩のモノローグがとても感情を動かしてきて、早起きして身体動かしたり、勉強したくなる。

 

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最近、三遊亭鬼丸の寄席を観た。看板のピン、居残り佐平次、芝浜の3席をやって、芝浜を生で聴けたのが嬉しかった。居残り佐平次、芝浜はトリネタで、鬼丸師匠もまだ演芸場ではトリネタを務めることはないそうで、こういう単独の寄席で研鑽を積んでいるとのことだ。鬼丸師匠は51歳。会社であれば、もう大ベテランと言っていい位の年齢だけれど、芸の道はこうも長いのかとその研鑽を積む年月の長さに驚き、芸事に携わる人たちへ強い尊敬を抱く。


ちょっと前に読んだ『東大生、教育格差を学ぶ』という本で印象的だったのが、東大生が自分たちの恵まれた環境を自覚して、自分たちの努力すら否定してしまいそうな気配が生じたこと。もちろん環境は恵まれている人は多いが、努力をしていないかというとそれは違う。すべてを環境のせいにすることも、努力のおかげとすることも極論であって、個人としても社会としてもそこの折り合いの付け方は難しい。でも、すべてを努力に還元しないことで他者に対する解像度はほんの少し高くなるんじゃないか。なんて思う。

 

今の僕は、少し努力じみたものをしたくなっている。バキ童チャンネルで受験エピソードを話す回があって、受験勉強中の狂気じみた勉強量、でもその中でしか味わえない達成感、充実感を思い出す。あれをもう一度感じたくなる。とりあえず明日は早起きしてやる🔥

 

最近読んだ本、読んでる本、買った本、借りた本

〇最近読んだ本

 

  • 高丘哲次『最果ての泥徒』

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前作『約束の果て 黒と紫の国』を読んでファンになったので、発売してすぐに買った。数年前はamazonで頼むことが多かったのだけれど、最近では本屋で取り置きしてもらうことが増えた。本屋で取り置きしてもらってでも買うことで、少しでも自分の趣味が反映された本が棚に並ぶんじゃないか、という期待。取り置きしてもらった本がレジ奥のキャビネットから取り出される特別感。この本も取り置きしてもらった。

尖筆師とその泥徒のふたりの半生を描いた話。尖筆師というのは、泥で作られた躯体に霊息を吹き込んで、泥徒を創る職業。1890~1910年くらいのヨーロッパを舞台にしていて、当時の情勢が妙にリアルなので、まるっきりファンタジーと言うことでもない。旅順を防衛するため、日本とロシアが戦闘するシーンが相当グロテスクで迫力があった。描写でグッと引き込まれた場面でいちばん印象に残ってる。前作でも感じたことだが、高丘氏は言葉に対して強い信頼を寄せている。言葉によって残すこと、伝えることを小説の根幹にかかわる部分に組み込んでいて、言葉を大事にしたいんだという想いを強く感じる。だから好き。

 

今年、MONO NO AWAREの「言葉がなかったら」をたくさん聴いている。言葉にすることの苦悩とそれでも言葉にしたいという欲求が歌われていて、今の自分のフィーリングにめちゃ合っていた。ひとつひとつの言葉に強度があって、同じことでぐるぐる頭を悩ませている自分を妙に励ましてくれる。『最果ての泥徒』を読んでいるとき、うっすらこの曲が流れていたのである。

 

  • 『14歳からの映画ガイド 世界の見え方が変わる100本』

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友達がこの本をつくるのに関わっていて読んだ。読んだ後で感想を伝えるってことをちゃんとやった。最近ではものをつくる人へのリスペクトが強くなってきて、今後も良い本をつくってほしいと思いながら書いた。読んでいて、書籍と雑誌の違いみたいなことを考えたのだった。キネマ旬報とか映画秘宝の映画誌で映画は紹介されているし、BRUTUSとかPOPEYEみたいなカルチャー誌でも特集が組まれることがあるし、雑誌はビジュアルで映画への興味を誘因できるから、雑誌と映画の相性が良すぎる。一方、書籍という形態で映画を紹介しているものって案外少ないように感じている。批評の文脈とかそういうもので見かけることはあるにせよ、中高生が映画を知ろうとして雑誌ではなく、書籍を手に取ることは本当に少ないんだと思う。ざっくり今やってる映画の情報を収集するとき、僕はTwitter*1かfilmarksを使う。

 

じゃあ、雑誌とどう差別化するのって考えたときに書籍は雑誌よりも書き手の存在が大きくなりうるし、文字数も大きく割けると思うから、エッセイ的なもの(書き手の側の個性とか人生観とか経験みたいなものが滲み出すようなもの)で映画を語るという手法がアリなのかも、って『14歳からの映画ガイド』を読んで思った。映画ガイドとはいうものの、映画史的な文脈で映画作品を語るようなことをしないから、観なきゃ、って義務感を覚えさせてしまうよりは観てみたいなという興味を湧かせることをイメージしたんじゃないかみたいなことを考えながら読んだ。映画好きというよりはもう少し手前の読者に向けて、もっと言うとこれから背伸びして本やら映画、漫画に触れていくのだろう人に向けて本を書いている印象。寄稿者によって、14歳、という世代に向けての語りかけが説教臭く感じて、しゃらくせえ!って思うけれど、そういう人ばかりではなかったので、全体として楽しく読んだ。面白く読めたのは、桜庭一樹、済東鉄腸、ぬまがさワタリ、大島育宙桜庭一樹が取り上げていた優しさと正しさのバランスみたいなものを今年ずっと考えていたので、思いがけずそういう文章に出逢って嬉しかった。

 

  • キム・チョヨプ『この世界からは出ていくけれど』

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韓国SFが盛り上がっているらしいけれど、間違いなくキム・チョヨプの才能による部分があると思う。キム・チョヨプの作品を通して、やさしさに触れられる感覚があって、めちゃくちゃ支持したい。今回の短篇集では、世界の知覚の仕方が異なる人々をわかり合おうとする様が描かれている。でも、完全にわかり合うことはない。

 わたしたちは見るもの聞こえるもの、認識の仕方が異なるばかりではなく、本当に、それぞれが異なる認知的世界を生きている。その異なる世界がどうすれば一瞬でも重なりうるのか、その世界のあいだにどうすれば接触面ーーあるいは線や点、共有の空間ーーが生まれうるのかというのが、この数年、わたしが小説を書きながら心を砕いてきたテーマだ。別々の世界は決して、完全に折り重なることも、共有されることもない。わたしたちは広漠たる宇宙を、永遠にひとりで漂う。
 でも、ハロ-、とこちらから手を振れば、ハロー、とあちらから返ってくる数少ない瞬間。それがあってこそ、人を変化させ、振り返らせ、時には生かしめる瞬間。

 そんな短い接触の瞬間を描くことが、わたしにとってとても大切だったのだと思う。

 

最初の短篇「最後のライオニ」はあまりに良くて涙がこぼれてしまった。他に好きだったのは「マリのダンス」、「ブレスシャドー」。

 

〇今読んでる本

 

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有休消化期間中、会いたい人に会う約束をしてたら、長期間旅行に行くということができなくなってしまったので、分厚い本を読んでやろうということで買って読んでいる。二段組みで800頁以上ある。分厚くて博学的な小説が読みたいときはパワーズの本を読む。1752年、イギリスでグレゴリオ暦が採用されて、9/2の次の日が9/14になったっていうエピソードがさらりと登場してきて、こういう雑学的なものを小説から得るの面白い。読みやすい訳ではないけれど、読み進められるだけの魅力がある。主人公のひとりオデイが図書館のリファレンスを担当している様を読んで、図書館に行きたくなる。

 

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久しぶりに読書会をしたいという話になって、読み応えのありそうなこの本を選んだ。あまり本に線を引くのは好きではないのだけれど、自分なりに精読してみたいという気持ちに成り、線を引きながら読んでいる。社会人になって平易な文章ばかり読んでいたから、読む筋肉に負荷がかかっている気分になる。1節の終わりのシーンの描写が漫☆画太郎の劇画チックな絵柄で脳内再生される。

 

冷気に身震いしつつ、僕は歯を剥き出し、石斧のとがった先を腫れに腫れた歯茎へとうちあてた。(中略)ミルク色に血の色の混っているはずの、しかしその大気のなかではただ墨色の、小さな噴水が眼の高さまでピュッとあがった。その弧の向うに、いつの間に戻ってきていたんだか、驚きと怒りに言葉もないアルフレート・ミュンツァーの農夫じみた顔が、あのころのきみの稚く穏やかなアルカイック・スマイルのかわりに、一瞬凝固するかのようで、僕は痛みからじゃなく、不満ゆえの悲鳴を発していた……

 

ギャグ漫画のような変な行為をこうも格好良い描写ができるのかと感動してしまった。

 

〇最近買った本

 

  • 桝野浩一『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 桝野浩一全短歌集』

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5年くらい前から短歌を読むようになって、たまに買う。前職の職場の近くの本屋では、埼玉県の片田舎としては珍しく、一つの棚が詩と短歌と俳句の本で埋まっていた。引っ越し先で駅ビルの本屋には詩集コーナーみたいなものがあるけれど、シルバー川柳的な本しかなくて、残念がっていたところ、商店街からひとつ路地に入ったところにある10坪くらいの本屋に詩集がそれなりのスペースを占めていて、思わず買ったのだ。海外文学や人文系の本もたくさん置いてあったので、めちゃくちゃ良い本屋を見つけてしまったと嬉しくなった。店主も気さくな方で本屋を開いた経緯とかこの街のこととかを教えてくれる。

 

  • セシリア・ワトソン『セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点』

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同じく商店街からひとつ路地に入ったところの本屋で買った。Twitterで見かけて気になっていた本が本棚に並んでいたので、買うっきゃないと思って買った。冒頭で少し触れた言葉への興味みたいなものが表出していることを自覚する衝動買いとなった。

 

〇最近借りた本

 

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図書カードをつくったので、何か本を借りようと思って、最初に借りた本。漫画とか雑誌とかに使われる書体について肩肘張らない感じで語るところが読みやすい。会社で報告書やパワポをつくるとき、大体決まった書式を使っていたのだけれど、色んな書式を使いたくなる一冊だった。

 

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積読本がたくさんあるし、読み切れる気はしませんが、読書時間頑張って増やします。

*1:厄介なユーザーなので、Xではなく、Twitterという言葉に固執する。スペースxしかり、イーロン・マスクがなぜXという言葉を使いたがるのか。Xが変数を意味することと関係あるんじゃないかと邪推しているけど、あんまり調べる気にならない。