on the road

カルチャーに関する話。

最近読んだ本、読んでる本、買った本、借りた本

〇最近読んだ本

 

  • 高丘哲次『最果ての泥徒』

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前作『約束の果て 黒と紫の国』を読んでファンになったので、発売してすぐに買った。数年前はamazonで頼むことが多かったのだけれど、最近では本屋で取り置きしてもらうことが増えた。本屋で取り置きしてもらってでも買うことで、少しでも自分の趣味が反映された本が棚に並ぶんじゃないか、という期待。取り置きしてもらった本がレジ奥のキャビネットから取り出される特別感。この本も取り置きしてもらった。

尖筆師とその泥徒のふたりの半生を描いた話。尖筆師というのは、泥で作られた躯体に霊息を吹き込んで、泥徒を創る職業。1890~1910年くらいのヨーロッパを舞台にしていて、当時の情勢が妙にリアルなので、まるっきりファンタジーと言うことでもない。旅順を防衛するため、日本とロシアが戦闘するシーンが相当グロテスクで迫力があった。描写でグッと引き込まれた場面でいちばん印象に残ってる。前作でも感じたことだが、高丘氏は言葉に対して強い信頼を寄せている。言葉によって残すこと、伝えることを小説の根幹にかかわる部分に組み込んでいて、言葉を大事にしたいんだという想いを強く感じる。だから好き。

 

今年、MONO NO AWAREの「言葉がなかったら」をたくさん聴いている。言葉にすることの苦悩とそれでも言葉にしたいという欲求が歌われていて、今の自分のフィーリングにめちゃ合っていた。ひとつひとつの言葉に強度があって、同じことでぐるぐる頭を悩ませている自分を妙に励ましてくれる。『最果ての泥徒』を読んでいるとき、うっすらこの曲が流れていたのである。

 

  • 『14歳からの映画ガイド 世界の見え方が変わる100本』

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友達がこの本をつくるのに関わっていて読んだ。読んだ後で感想を伝えるってことをちゃんとやった。最近ではものをつくる人へのリスペクトが強くなってきて、今後も良い本をつくってほしいと思いながら書いた。読んでいて、書籍と雑誌の違いみたいなことを考えたのだった。キネマ旬報とか映画秘宝の映画誌で映画は紹介されているし、BRUTUSとかPOPEYEみたいなカルチャー誌でも特集が組まれることがあるし、雑誌はビジュアルで映画への興味を誘因できるから、雑誌と映画の相性が良すぎる。一方、書籍という形態で映画を紹介しているものって案外少ないように感じている。批評の文脈とかそういうもので見かけることはあるにせよ、中高生が映画を知ろうとして雑誌ではなく、書籍を手に取ることは本当に少ないんだと思う。ざっくり今やってる映画の情報を収集するとき、僕はTwitter*1かfilmarksを使う。

 

じゃあ、雑誌とどう差別化するのって考えたときに書籍は雑誌よりも書き手の存在が大きくなりうるし、文字数も大きく割けると思うから、エッセイ的なもの(書き手の側の個性とか人生観とか経験みたいなものが滲み出すようなもの)で映画を語るという手法がアリなのかも、って『14歳からの映画ガイド』を読んで思った。映画ガイドとはいうものの、映画史的な文脈で映画作品を語るようなことをしないから、観なきゃ、って義務感を覚えさせてしまうよりは観てみたいなという興味を湧かせることをイメージしたんじゃないかみたいなことを考えながら読んだ。映画好きというよりはもう少し手前の読者に向けて、もっと言うとこれから背伸びして本やら映画、漫画に触れていくのだろう人に向けて本を書いている印象。寄稿者によって、14歳、という世代に向けての語りかけが説教臭く感じて、しゃらくせえ!って思うけれど、そういう人ばかりではなかったので、全体として楽しく読んだ。面白く読めたのは、桜庭一樹、済東鉄腸、ぬまがさワタリ、大島育宙桜庭一樹が取り上げていた優しさと正しさのバランスみたいなものを今年ずっと考えていたので、思いがけずそういう文章に出逢って嬉しかった。

 

  • キム・チョヨプ『この世界からは出ていくけれど』

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韓国SFが盛り上がっているらしいけれど、間違いなくキム・チョヨプの才能による部分があると思う。キム・チョヨプの作品を通して、やさしさに触れられる感覚があって、めちゃくちゃ支持したい。今回の短篇集では、世界の知覚の仕方が異なる人々をわかり合おうとする様が描かれている。でも、完全にわかり合うことはない。

 わたしたちは見るもの聞こえるもの、認識の仕方が異なるばかりではなく、本当に、それぞれが異なる認知的世界を生きている。その異なる世界がどうすれば一瞬でも重なりうるのか、その世界のあいだにどうすれば接触面ーーあるいは線や点、共有の空間ーーが生まれうるのかというのが、この数年、わたしが小説を書きながら心を砕いてきたテーマだ。別々の世界は決して、完全に折り重なることも、共有されることもない。わたしたちは広漠たる宇宙を、永遠にひとりで漂う。
 でも、ハロ-、とこちらから手を振れば、ハロー、とあちらから返ってくる数少ない瞬間。それがあってこそ、人を変化させ、振り返らせ、時には生かしめる瞬間。

 そんな短い接触の瞬間を描くことが、わたしにとってとても大切だったのだと思う。

 

最初の短篇「最後のライオニ」はあまりに良くて涙がこぼれてしまった。他に好きだったのは「マリのダンス」、「ブレスシャドー」。

 

〇今読んでる本

 

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有休消化期間中、会いたい人に会う約束をしてたら、長期間旅行に行くということができなくなってしまったので、分厚い本を読んでやろうということで買って読んでいる。二段組みで800頁以上ある。分厚くて博学的な小説が読みたいときはパワーズの本を読む。1752年、イギリスでグレゴリオ暦が採用されて、9/2の次の日が9/14になったっていうエピソードがさらりと登場してきて、こういう雑学的なものを小説から得るの面白い。読みやすい訳ではないけれど、読み進められるだけの魅力がある。主人公のひとりオデイが図書館のリファレンスを担当している様を読んで、図書館に行きたくなる。

 

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久しぶりに読書会をしたいという話になって、読み応えのありそうなこの本を選んだ。あまり本に線を引くのは好きではないのだけれど、自分なりに精読してみたいという気持ちに成り、線を引きながら読んでいる。社会人になって平易な文章ばかり読んでいたから、読む筋肉に負荷がかかっている気分になる。1節の終わりのシーンの描写が漫☆画太郎の劇画チックな絵柄で脳内再生される。

 

冷気に身震いしつつ、僕は歯を剥き出し、石斧のとがった先を腫れに腫れた歯茎へとうちあてた。(中略)ミルク色に血の色の混っているはずの、しかしその大気のなかではただ墨色の、小さな噴水が眼の高さまでピュッとあがった。その弧の向うに、いつの間に戻ってきていたんだか、驚きと怒りに言葉もないアルフレート・ミュンツァーの農夫じみた顔が、あのころのきみの稚く穏やかなアルカイック・スマイルのかわりに、一瞬凝固するかのようで、僕は痛みからじゃなく、不満ゆえの悲鳴を発していた……

 

ギャグ漫画のような変な行為をこうも格好良い描写ができるのかと感動してしまった。

 

〇最近買った本

 

  • 桝野浩一『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 桝野浩一全短歌集』

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5年くらい前から短歌を読むようになって、たまに買う。前職の職場の近くの本屋では、埼玉県の片田舎としては珍しく、一つの棚が詩と短歌と俳句の本で埋まっていた。引っ越し先で駅ビルの本屋には詩集コーナーみたいなものがあるけれど、シルバー川柳的な本しかなくて、残念がっていたところ、商店街からひとつ路地に入ったところにある10坪くらいの本屋に詩集がそれなりのスペースを占めていて、思わず買ったのだ。海外文学や人文系の本もたくさん置いてあったので、めちゃくちゃ良い本屋を見つけてしまったと嬉しくなった。店主も気さくな方で本屋を開いた経緯とかこの街のこととかを教えてくれる。

 

  • セシリア・ワトソン『セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点』

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同じく商店街からひとつ路地に入ったところの本屋で買った。Twitterで見かけて気になっていた本が本棚に並んでいたので、買うっきゃないと思って買った。冒頭で少し触れた言葉への興味みたいなものが表出していることを自覚する衝動買いとなった。

 

〇最近借りた本

 

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図書カードをつくったので、何か本を借りようと思って、最初に借りた本。漫画とか雑誌とかに使われる書体について肩肘張らない感じで語るところが読みやすい。会社で報告書やパワポをつくるとき、大体決まった書式を使っていたのだけれど、色んな書式を使いたくなる一冊だった。

 

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積読本がたくさんあるし、読み切れる気はしませんが、読書時間頑張って増やします。

*1:厄介なユーザーなので、Xではなく、Twitterという言葉に固執する。スペースxしかり、イーロン・マスクがなぜXという言葉を使いたがるのか。Xが変数を意味することと関係あるんじゃないかと邪推しているけど、あんまり調べる気にならない。