on the road

カルチャーに関する話。

実家で毎週録画してるテレビ番組は僕しか見てない

転職して、出張する機会が増えてきた。今後は月に1回のペースで出張に行くことになりそう。帰りのサービスエリア、駅や空港でお土産を多めに買ってしまう。出張慣れしていないからでもあるし、何かをあげたくなる心性が年齢を重ねるごとに剥き出しになってきている。

 

モースは、「誰かから何かを受け取るということは、その人の霊的な本質の何ものか、その人の魂の何ものかを受け取ることに他ならない」というようなことを言っている。もしかしたら、お土産をもらうときに僕の感情の幾らかを負い目のように感じさせているかもしれない、とも思うが、口下手な僕としてはお土産を媒介させて、何かを伝えたい。それは感謝とかそういう大それたことではなく、出張先で感じたイメージ群を、100%ではないけど持って帰れる大きさで、色々話さなくてもうっすら伝わるような感じ。

 

全然文脈とは直接的に関係ないけど、『スキップとローファー』のいかせんべいを多めにあげるシーン好き。

 

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実家は電車で1時間ちょっとくらいかかるところなので、帰ろうと思えばいつでも帰れる。引越ししてからは実家に帰る頻度が減った。母から新しい職場はどうですかとか近況を尋ねるLINEが送られることも増えた。両親はともに70を超えるくらいの年齢なので、長期休暇のときだけ実家に帰ったとして、元気な両親と話せるのは100回もないかもしれない、というグロテスクな想像をしてしまい、振替休日の日にお土産片手に実家へ帰った。特に連絡もせずに帰ったので、家にいたのは父だけで、母は親戚の家へ遊びに行っていた。

 

父に近況を報告して、お土産を手渡す。受け取るとすぐに食べ始める。僕も職場でお土産をもらったときにすぐに食べるので、これは父譲りだったのかと恥ずかしくなる。

 

実家に帰った時、毎週録画されてるバラエティ番組をぼーっと見るのがルーティンで、そのバラエティ番組を見ているのは僕だけしかいない。一人暮らしを始めてからも毎週録画の予約を消し忘れていて、いつまでも録画され続けている。両親は毎週録画のやり方がわからないから、見たい番組は毎回番組表から選んで録画予約していた。

 

その日も録画番組を見ようと思ったら、レコーダーが買い替えられていて、毎週録画していたバラエティ番組は消えてしまった。

 

母が帰るのを待とうと思ったが、友達の誕生日プレゼントを買いに行きたかったので、母の帰りを待たずに実家を出る。友達の誕生日プレゼントには、オレンジジュースを買った。ちょっと高めのオレンジジュース。自分用に買うにはハードルが高いけど、見た目も綺麗で美味しそうだったので、デパ地下で買った。

 

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近くで展示会があったから、見に行った。千賀健史個展「まず、自分でやってみる。」で、特殊詐欺に関するインスタレーションが展示されていた。特殊詐欺というものに深く向き合ったことがなかった。自分の世界の少し外にある出来事と捉えていた。

 

スゴロクのマスが床に描かれていて、そこに描かれている言葉はアーティストが取材で実際に見聞きした言葉をもとに紡がれたもので、自分の世界の内側にもありうる出来事かもしれないと感じた。

 

統計上詐欺犯の半分は再犯している

それがなんでか考えたことある?

悪いやつだから?

 

あの日お金を取られたことを思い出すと

亡くなったお父さんに申し訳なくて

悲しいし、辛い

私もボケちゃったのかしらね

 

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たまたまその日はアーティストの人による直接解説してもらえるツアーをやっていて、参加者からの質問にも答えてくれた。

 

僕はデスクの上に置いてある茶封筒を指さし、「特殊詐欺には、こういう茶封筒はよく出てくるアイテムなんですか」という小学生みたいな質問しかできなかった。でも、とても丁寧に答えてくれた。

 

茶封筒にキャッシュカードや現金が入っていることがよくあるらしい。運び役になった闇バイトに応募した若者は、ロッカーからロッカーへ茶封筒を運ぶ。運ぶ瞬間、運び役はその手触りや重みで単なる書類を運んでいるわけではないことに気づいてしまう。もしかしたら自分は犯罪に加担しているのかもしれない、という罪悪感を感じながらも、茶封筒を開けてはいないから自分は何も知らないと言い聞かせながら割りの良いバイトを最後までこなしてしまう。そんなシーンが現実にありうる。

 

特殊詐欺というとっつきづらいテーマに対して、アートっぽく演出することで、若者にも興味を惹かせるという試みも面白いし、アーティストと話す機会もあるので、時間が合う人は行くべし。

 

 

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最近、『ミワさんなりすます』を読んだ。ミワさんは、八海崇という俳優が推しのシネフィル。どれくらいシネフィルかというと、映画の有名なシーンを何分何秒のシーンかを言い当てることができるくらいのレベル。(メモしながら映画を観てるかららしい)

 

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八海崇が家政婦を募集していて、募集要項にTOEIC800点以上、ファンNGとあって、応募を諦めてしまったのだが、諦めきれずに家の前で誰が家政婦に採用されたかを見届けるために待ち伏せる。家政婦に採用されたと思わしき女性を見つけた瞬間、交通事故に遭い、救急搬送されてしまう。救急車に運ばれたのを見届けると、八海崇の家からあなたが家政婦の美和さくらさんですね、と人違いされる。それを否定せず、うそをついて美和さくらになりすまして、家政婦として働き始める、というのがあらすじ。

 

この漫画は、緊張と緩和を繰り返す。なりすましがバレてしまうかもしれないという罪悪感と八海崇と親交を深めていく喜びの間で揺れるミワさんと同じくらい読者も感情が揺れ動かされる。僕はドッキリ番組でたまにある気まずい空気が流れる瞬間が苦手なので、バレかける瞬間はページを繰る手を止めて、ひと呼吸いれて何ならテレビやYouTubeを観て心を落ち着かせてからじゃないと読めなかったりする。

 

面白いから読み進めるが、オタク的饒舌を許され、一種の才能のようにその知識が認められていく様に嫉妬を少し覚える。僕は小説や映画が好きでも、オタク的饒舌で魅力を語ることができない。友達におすすめするとき、あらすじすら分かりやすく魅力たっぷりに話せなくて、自分の好きは薄っぺらなんじゃないかと思うこともしばしばある。

 

でも、話す相手との関係性(相手の能力とかじゃない、関係性)でいくらでも話す内容や深度は変わると最近は感じるので、あまり気にせずに言語化を模索していければ良いんじゃないか、と開き直っている。

 

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最近、聴いているのは、ずっと真夜中でいいのに。の「綺羅キラー」。「最低のコンプだし 最高の昆布だし」ってところが好き。

 

 

出汁の効いた汁物を食べたい。