on the road

カルチャーに関する話。

ポラリスからエライへ

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銀杏BOYZがカバーした「MajiでKoiする5秒前」を最近よく聴いている(あの不倫報道とはまったく関係ない)。原曲は1997年。当時僕は4歳だから覚えてはいないけれど、ギャルファッションをした若者であふれかえった時期だったはずだ。渋谷は再開発されて、昔の街並みはほとんど残されていないらしい。渋谷系と称す時のあの文化の発信地であった渋谷をそのままの形で訪れることはもう出来ないのだと思う。色々なものが目まぐるしく変わる渋谷の街で、ハチ公は変わらず待ち合わせ場所であり続けている。少なくとも僕にとっては、ハチ公は信頼することの象徴でもあって、それが残り続けていることが嬉しい。

 

最近、『葬送のフリーレン』を読み返した。勇者ヒンメルの英雄譚を語り継ぐために色々な町で勇者一行の銅像が建てられている。人の寿命の10倍以上あるエルフのフリーレンが未来でひとりぼっちにならないように、自分たちがたしかにここに実在したことを残すため、と勇者ヒンメルはフリーレンに伝えるのだけど、当時のフリーレンはピンとこない。でも、ヒンメルの死後、人間のことをよく知りたいと冒険に出るフリーレンは、町人からヒンメルとの想い出が語られ、あなたがフリーレン様なのですね、と感謝される。回想で登場する度に、ヒンメルの思いやりの深さに胸を打たれ、ヒンメルの存在が読者にとっても段々と大きい存在になっていくというのが不思議な読書体験だと思う。9月末に金曜ロードショーでアニメ化されるらしく、今から楽しみ。

 

 

 

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昨日、『君たちはどう生きるか』をIMAXで観た。ジブリ作品はそこまで観たことがないのだけれど、今までのジブリ作品の中でぶっちぎりで分かりづらいと思う。でも、何か感じるものはたくさんある映画だったことに間違いはない。宮崎駿の人生を総括した映画なのだろうことがビシビシ伝わるし、色々な人も指摘しているように「俺はこう生きてきた、じゃあ君たちはどう生きるか」と自分で生き方を選べ、と言われているように感じた。しかもその問いに目を背けることもできないような抗しがたさもある。事前情報を入れないからこそ、よりこの感覚を強く覚えるんじゃないだろうか、観ようと思っている人は早めに観るべし。

 

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IMAXで映画を観る前の時間で、本屋に寄って辻村深月の『この夏の星を見る』を買って、今日読んだ。2020年、コロナ禍で登校や部活動を制限された中高生たちの話で、この小説に取り入れるスピード感がすごいなと思わず手に取ってしまったのだ。茨城県の高校2年の亜紗、渋谷区の中学1年の真宙、長崎県五島列島の高校3年の円華の3人の群像劇形式で、茨城の高校で実施していた望遠鏡で星を観測するスピードを競うスターキャッチコンテストに興味を惹かれた真宙の1通のメールがきっかけで交流が始まる、というあらすじだけでそんな出来事がコロナ禍にあったのかもしれない、とわくわくしてしまった。違う場所にいても遠く離れていても、同じ空を見ている、というのが臭くなりすぎずに扱っているのも良かった。ネットで調べる限り、そういうスターキャッチコンテストなるもので全国の高校がリモートでつながったということはなかった。『チー地球の運動についてー』を少し前に読んで、天体に興味が湧き始めたタイミングだったので、より『この夏の星を見る』を楽しく読んだ。

 

 

北極星こぐま座α星のポラリスであることは知っていたが、北極星が長い時を経て違う星に変わっていくことを知った。北極星は動かないと学校で習ったけれど、もっと長い年月で見れば、動いている。地球の北極に完全に重なる位置する天体はないからだ。だから時代によって、北極星は違う星になる。今のポラリスの次は、ケフェウス座γ星のエライに変わるらしい。エライが北極星になるのは、西暦4000年頃らしいから北極星になる瞬間を観測するのはほぼ不可能だろう(冷凍保存でもされれば、観測できるかも)。

 

方角を確認するために参照されてきた北極星も、時代が変われば違う星になる。ポラリスからエライに北極星が移り変わるとき、どんな社会になっているんだろうか。

 

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まだ上半期を終えたばかりだけど、今年読んで面白かった漫画の1位になりそうな漫画に出逢った。阿賀沢紅茶『氷の城壁』。少年ジャンプ+で連載中の『正反対な君と僕』を大好きで読んでいたから、最近単行本化された『氷の城壁』も面白いだろうと読んでみたら、大好きだった。汗でテスト用紙が滲んでしまっているのを恥ずかしく思うようなちっさなあるあるエピソードも好きだけど、なにが一番好きになった要因かと言ったら、言語化能力の高さだ。たとえば。第4話「線と壁」で回想されるシーン。こゆんがあまり知らない先輩たちに「俺らん中だったら誰が一番カッコイイ?」と聞かれ、こゆんがどういうノリで聞かれているか分からず、困惑している様子を「かわいい」と先輩たちが腹を抱えて笑う場面で、こういうのはあんまり漫画で描かれてこなかったけど、「これ、めっちゃ嫌だな」と思うやりとりだった。悪意はなくて、どちらかというと好意が含まれている冗談でも、自分の気持ちがないがしろにされている感覚を覚えるし、ほっといてほしいと思って壁をつくるこゆんの気持ちがわかる、と思ってしまった。

 

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こゆんが仲良くなろうと話しかけてくるミナトに対して、「気持ち悪い」と拒絶する。後に、保健室でご飯を食べながら保健室の先生に相談すると「でも、相手に気持ちを伝えることも大事よ。嫌なことは嫌って。もちろんその文相手の意見を聞くことも大切だけど」と言われ、こゆんはこう思う。「「伝える」?違う。あの瞬間、私は腹が立ったから、傷付けにいった。しかも雨宮クンの話も聞かずに。一方的に」。伝えるんじゃなくて、傷付けるための言葉を使った、という表現の的確さにこの漫画は、恋愛漫画としてじゃなくて、他人に対してどう関わっていくかを描いた漫画なのだと更にのめり込んでいった。中心的な人物が4人いるのだけれど、感情の揺れ動きを丁寧に描いてくれるから、みんな好きになる。まだ2巻しか単行本化されていないからLINE漫画で全話購入したけど、単行本も全巻買うと思う。みんなも読むべし。

 

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