on the road

カルチャーに関する話。

白目と最近の関心、悩み

課長に自分のデスクトップを見られるのが、嫌なんだよ。居酒屋で先輩がそう愚痴をこぼすのをソフトドリンクを飲みながら聞いていた。課長の席から先輩の席は左斜め前の別の島に位置していて、課長は席を立たなくても先輩が今何をしているのかを見ることが出来る程度の距離にある。だから、課長は時折先輩が今やっている仕事を見ているし、先輩もその視線を背中で感じている。過剰に監視されているようでうんざりしているようだ。僕は適正なマネジメントの範囲内だと感じるが、先輩はそう感じていない。

 

ヒトを除く動物には白目がほとんどない。白目がないということは視線を悟られなくなるということで、捕食活動のために白目を必要としなかったのではないか、ということを動物園で働く人が話していたのをうっすら覚えていた。だから、先輩の話を聞いていると、その視線は白目があるから感じ取れるんだろうな、なんて思う。

 

先輩の愚痴を聞いて、実は耳が痛かった。というのは、僕もよく職場の人のデスクトップを盗み見て、声をかけるからだ。僕の担当業務と直接関係ない仕事をしている人にも声をかけてしまう。Excelに頼り切った仕事をみんなしている一方、Excelの操作も効率的でないと感じるので、もっと良いやり方あるよ、と教えたくなってしまう気持ちからそうしているのだが、それも過剰な監視、いわゆるマイクロマネジメントになってしまうんだろうか。でも、教えたりアドバイスすることで早く帰ることができるなら、少なくともみんなの残業が増えつつある現状においては、今のやり方をしていて良いのではないか、と自分を正当化している。

 

同じ部署の後輩で仕事が思うように進めることが出来ず、ストレスを抱え、体調を崩している様子を見ていると、ほっとけなくなり、たまにご飯に誘う。もう自分はこの部署にいない方がいいんじゃないかと思うんですよ。と話す後輩にいたたまれない気持ちになる。自分自身、社会人3年目くらいまではダメダメで社会人に向いていないんじゃないかとすら思う日々で、ちょっとしたきっかけひとつで仕事が上手くいくようになった経験があるので、そんなことはないと自分の経験を交えつつ伝えるが、なかなか後輩に言葉が届いていかない。こういうときにどんな言葉をかければいいのだろうか。

 

そこまで頭を悩ませる義理はないかもしれない。休日に一緒に遊ぶような仲でもない。後輩の悩みは後輩自身、恋人や家族、あるいは上司が考えるべき問題なのかもしれない。会社の人とそこまで親しくなろうという気もあまりない。でも、社会人生活はどの学校生活よりも長いし、会社もひとつのコミュニティなわけで周りに困っている人がいたら声をかけてしまうのは当たり前でしょ?ここ数週間の僕は、少なくともそういうメンタリティで後輩の悩みに向き合うことにしている。

 

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最近、文化人類学にハマっている。学生時代にはあまり触れてこなかった分野だから、色んな研究にいちいち驚く。文化人類学の面白さのひとつには、フィールドワークによって研究を行っていくことがある。現地に行って、その場所で暮らしていくことでどういう文化かを研究していく。だから、他の学問より身体性が強く表れる学問なんじゃないか、とまだ本を3冊ばかり読んだ浅学な僕は強く思う。

 

その身体性は否定されるものではない。むしろ科学的、近代的視座から語ることは先進国/発展途上国という区別から想起されるような欧米諸国の社会のあり方を特権的に捉えていると、批判の対象に合うこともあるらしい。屁理屈のように感じてしまうかもしれないが、文化人類学を学んでいくと、オルタナティブな社会のあり方はたしかに存在している、と感じる。貨幣経済に依存しなくても、国家が存在しなくても、社会は形成されうることを文化人類学者は学んでいくし、違う文化圏の生活を理解していくことは本当に可能なのか、という他者理解の議論にまで発展していくし、学者の考えが変容せざるを得ないような場面に直面する。

 

つまり、純粋な観察者であることができない。自分もその文化に晒されて価値観が混ざり合っていく。そういう変質が起こっていくことを僕は学問に求めていたので、文化人類学ガチ勢に色々教えて欲しい。

 

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もう少しで30歳になろうとしている。他の人に比べて、歳を重ねることへの恐怖はない。いや、正確に言えば、何もせずに歳を重ねることに対しては恐怖している。先週の脳盗で、歌丸が30歳は第2思春期である、というようなことを言っていた。自分の人生が固まるかどうかの分岐点のように感じる時期であり、前より可処分所得が増え、できることも増えてきた中で何をやるか、を選択しないといけない時期なのである。ひとつひとつの事象で言えば、やりたいことは無数にあるけれど、一方でやりたいことを選択するには、何かを切り捨てないといけないので、何を切り捨てようか、と悩む今日この頃なのである。